自潰した体表腫瘍に対し、Mohsペーストを使用した症例(トイプードル15歳)
体表の腫瘤を舐めて出血してしまうとのことで来院しました。
症例は10歳ぐらいから体表に腫瘤を多数認めていました。今回は右膝付近に発生した腫瘤が大きくなってきて、舐めた所為なのか自潰し、じわじわ出血している状態でした。既往歴として僧帽弁閉鎖不全症、肝機能障害があり投薬を継続しており、心臓や肝機能の状態により麻酔のリスクが高いこと、多発している腫瘤を全て切除することは不可能なことなどからMohsペーストによる緩和治療を実施することにしました。
患部を洗浄し痂皮や壊死組織を取り除いた後、腫瘤周囲にワセリンを塗り、自潰した部分にMohsペーストを塗布しました。1時間後生理食塩水で洗浄しました。処置後には腫瘤は灰白色に変色し出血も止まっていました。1週間後変色部位が脱落し肉芽組織が認められました。2週間後には皮膚の上皮化が完了し治療終了としました。
4ヶ月後同じ部位に同じような腫瘤が再発したとのことで来院。再びMohsペーストを塗布し、同様の経過を経て、2週間後に上皮化を確認し治療終了としました。
Mohsペースト塗布前 | 塗布1時間後 |
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組織が灰白色に変性しています。 |
1週間後 | 2週間後 |
編成した組織が脱落し、肉芽組織が見られます。 |
皮膚が再生し、傷が塞がりました。 |
コメント
Mohsペーストとは1930年代にアメリカの外科医Frederic E. Mohs氏が考案した軟膏で、軟膏を塗布し腫瘍を化学的に変性させて除去することにより治療を行います。医学領域では切除不可能な腫瘍からの出血、滲出液、悪臭、疼痛をコントロールしQOLの改善を目的として、主に末期がん患者に対する緩和的治療として使用されています。近年、獣医学領域でも自潰した体表の腫瘍に対する使用が報告されています。
Mohsペーストの効果は主に塩化亜鉛によるものといわれています。亜鉛イオンは水溶液中で蛋白質を沈殿させ、組織の収斂や腐食を起こし、また細菌に対しては殺菌作用を示します。殺菌作用により、悪臭を伴う感染病巣にも効果を示します。Mohsペーストは腫瘍組織だけでなく正常な組織も変性させるので、ペーストが正常な組織に接触しないように慎重に取り扱わなければなりません。ペースト塗布による疼痛コントロールを考えて鎮静剤を使用することもあります。
本症例のように、腫瘍を消失することができても再発することが多い治療法ですが、Mohsペーストによって従来管理が困難であった手術のできない自潰腫瘍の出血や滲出液を軽減することができました。患者さんだけでなく、普段ケアするご家族の皆さんのQOLを改善する有効な緩和ケアだと思います。