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診療案内Guide

前縦隔型リンパ腫

元気低下、食欲不振を訴え来院。

初診時

血液検査で測定上限を超える高カルシウム血症、レントゲン撮影で前胸部に直径6cmの腫瘤をみとめました。Tru-cut針によるコアバイオプシーによって悪性リンパ腫との診断を得ました。治療に先立ち、牧羊犬にみられるMDR-1遺伝子変異を検査したところヘテロタイプという遺伝子の異常が確認されたので特定の抗がん剤は減量して使用することにしました。

前胸部に約6cmの腫瘤が認められました

2週間後

数種類の抗がん剤によるリンパ腫の治療、および高カルシウム血症の治療を並行して行ったところ、2週間後には高カルシウム血症は改善し、胸部の腫瘤陰影は消失しました。 その後、1~3週間に一度の抗癌剤治療を継続しました。時折、抗がん剤の副作用が認められましたが、元気食欲も改善し良好な経過をたどりました。

抗がん剤治療により腫瘤が消失しました

6ヶ月後

6ヶ月後、超音波検査にて腹部リンパ節の腫脹を認め、リンパ腫の再発を確認しました。 これまで使用していない抗がん剤を使用するレスキュー療法を行ってところ、リンパ腫は縮小しましたが完全にはなくならず、一進一退を繰り返し、発症から10ヶ月後、敗血症により亡くなりました。

腹腔内リンパ節:中腹部に1.2cmの腫脹したリンパ節を確認し、リンパ腫の再燃と判断しました

犬のリンパ腫の好発年齢は6~9歳で性差ありません。特徴的な症状はなく、体重減少や元気、食欲の低下などの非特異的所見が主に見られます。

犬のリンパ腫は、犬の全腫瘍中7~24%を占める疾患で年間発生率は10万頭あたり13~24例といわれており比較的多くみられる腫瘍症例です。

犬のリンパ腫の80%は全身の体表リンパ節の腫脹がみられる多中心型リンパ腫で、前縦隔型リンパ腫は5%程度しか見られないといわれています。前縦隔リンパ腫は高カルシウム血症という症状を伴うことが多く、腎不全に陥る危険性が高いため早急な治療が必要になります。

リンパ腫の基本的な治療は抗がん剤による化学療法になります。抗がん剤と聞くと、ひどい副作用で吐き気が止まらなかったり、寝たきりになるような悪いイメージが浮かぶかもしれませんが予想される副作用に対する治療を同時に行うことで副作用は軽減されます。多くのペットたちは通院で抗がん剤治療を受けながら、普段通りの日常生活を過ごすことが可能です。

また、コリー、シェルティー、オールドイングリシュシ-プドッグなどの牧羊犬は薬の分解、排泄に関わるMDR-1という遺伝子に異常がみられることがあります。その場合、ビンクリスチン、ドキソルビシンなどの抗がん剤を使用した時に副作用が強く出てしまうので注意が必要です。本症例ではヘテロ型という要注意の症例でしたが抗がん剤を減量して使用しました。リンパ腫で最も多い多中心型リンパ腫では複数の抗がん剤の使用によりおよそ1年の寿命の延長が期待できます(無処置の場合は1~2カ月といわれています)。1年という時間を十分と考えるか短いと考えるかにもよりますが、その多くの時間を飼い主様とともに過ごせるので、リンパ腫を患ってしまった時は抗がん剤の使用を提案しています。

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