乳腺腫瘍
以前より存在していた乳腺のしこりが大きくなり、出血、化膿しているとのことで来院されました。
右第2乳腺に直径10cmほどの腫瘤があり、自壊し出血、化膿していました。
右第2乳腺に巨大な腫瘤があり出血、化膿をしていました。
(黒線は切除予定ラインを示しています。)
その他にも右第4乳腺、左第4乳腺にも直径8mmほどの腫瘤を確認しました。 飼い主様には、乳腺腫瘍で悪性(いわゆる乳がん)の可能性が高いこと、もし良性でもこのままでは出血、化膿を繰り返してしまうことなどをお話しし、外科的に切除することにしました。
術前検査では貧血と低タンパク血症が認められ、このまま麻酔をかけるのは危険だと判断し、輸血を実施してから手術に望みました。
手術は右の第1乳腺から第5乳腺までと左の第3乳腺から第5乳腺までを全て切除しました。
手術は無事終わり、再度貧血に陥ることもなく良好に経過し退院となりました。
乳腺腫瘍の病理組織検査の結果は右の巨大な腫瘍と左の小さな腫瘍の一つが乳腺癌、残りの腫瘍は良性の乳腺腫瘍という結果でした。
転移の危険性は低いとのことでしたが巨大な腫瘍はマージン※が少ないとのことでしたので、再発防止を目的に抜糸後よりピロキシカムを服用中。術後3ヶ月現在、再発、転移の兆候はありません。
※マージン:サージカルマージン、外科的余白。外科手術時における腫瘍細胞がない余白、または腫瘍細胞外縁までの距離のこと。
コメント
犬の乳腺腫瘍は雌犬に一般的に認められる腫瘍で、雌犬の全腫瘍中52%を占めます。また、良性と悪性の比率は50%:50%で、さらに悪性の中で50%が転移すると言われています。
乳腺腫瘍の予後は腫瘍の大きさ、リンパ節転移、遠隔転移の有無などで評価されます。直径3cmを超えない場合の外科手術後の予後は良好とされていますので乳腺にしこりを見つけた場合は早めに受診して外科的な切除を検討した方がいいでしょう。
また犬の乳腺腫瘍はホルモンが関係しており、避妊手術によって発生のリスクは抑えられます。避妊手術を初回発情前にした場合の乳腺腫瘍の発生確率は0.05%、初回発情後で8%、2回目発情以降で26%とされています。このことからも出産などを考えていない場合は若齢での避妊手術の実施が推奨されています。
手術後、脈管浸潤、リンパ節転移などを認めた場合は、抗がん剤による補助療法が勧められます。また近年開発された分子標的薬によって、転移がんの増殖が抑えられるとの報告があり生存期間の延長が期待できるようになっています。