オクラシチニブ(アポキル)にて治療した犬アトピー性皮膚炎(チワワ14歳)
10歳くらいから皮膚のかゆみと脱毛がひどくなり、他院で治療していたものの一進一退を繰り返しなかなか良くならないとのことで来院。
当院初診時、腹部の被毛はほぼ消失、発赤、肥厚しており、擦過傷をいたるところに認めました。内股、腋窩は慢性肥厚がひどく色素沈着が認められました。眼瞼周囲も掻いてしまい、脱毛、発赤が認められました。
皮膚掻爬検査は異常初見なし、皮膚押捺検査では有核角化上皮、マラセチア、球菌、好中球を認めました。血液検査では特に異常を認めませんでした。
アトピー性皮膚炎、およびマラセチア皮膚炎、膿皮症の2次感染と考え治療を開始しました。ミコナゾール硝酸塩入りシャンプー、炭酸泉温浴を週一回実施し、抗真菌薬、抗菌薬を処方しました。また、痒みのコントロールを目的としてプレドニゾロンとオクラシチニブ(アポキル)を処方しました。
1週間後には痒みも軽減し、発赤もおさまってきたのでプレドニゾロン、抗菌薬を中止、オクラシチニブと抗真菌薬を継続することにしました。
4週間後には発赤、痒みはほぼなく、発毛も認められました。抗真菌薬も中止しオクラシチニブとシャンプー、炭酸泉温浴のみ継続することにしました。またこの頃より、アトピー性皮膚炎の療法食(ダームディフェンス™️)を開始しました。
その後、オクラシチニブも漸減し、2ヶ月後には食事療法と2週間に一度のシャンプー、炭酸泉温浴のみで皮膚は良好に維持できています。
当院初診時 |
---|
腹側全域が発赤、脱毛、慢性肥厚しています。脇や内股には慢性炎症による色素沈着もみられます。 |
|
2ヶ月後 |
炎症、痒みがなくなり、全体的に発毛がみられます。 |
コメント
アポキルは2015年ごろより使用され始めたオクラシチニブを主成分とする分子標的薬の一種です。分子標的薬とは病気の細胞の持つ特異的な性質を分子レベルで捉えて、標的として効率よく攻撃する薬です。そのため正常な細胞へのダメージが少なくなり、副作用もあまりないことがわかっています。
オクラシチニブもステロイドなどの従来のアレルギー薬に比べて副作用が少なく、ステロイドと同等の効果が期待できることがわかっています。
当院でも、アレルギー性皮膚炎の症例に処方することが多くなってきましたが本症例のように、いい効果がみられる場合もあれば、残念ながら反応がよくない症例もあります。痒みの原因は一つではないのでどの薬をどのように使うかの判断が重要だと思います。
また本症例では、アトピー性皮膚炎用の療法食であるダームディフェンス™️も皮膚の状態維持に一役買っていると考えられます。ダームディフェンス™️はアトピー性皮膚炎の原因であるヒスタミンのコントロールや、オメガ脂肪酸を配合することで皮膚のケアを目的とした食餌です。アトピー性皮膚炎の維持療法としての効果が期待できます。