腫瘍科
肥満細胞腫
肥満細胞腫ってなに?
肥満細胞腫は犬の皮膚や皮下組織にみられる、悪性の腫瘍です。いわゆる「がん」(=悪性腫瘍)の中で最も多くみられる腫瘍です。
肥満細胞腫は、免疫細胞の一種である肥満細胞という細胞が腫瘍化して、発生します。肥満という名前がついていますが太っているから肥満細胞が多くあるわけではありません。誰の体内にも存在していて、炎症やアレルギー反応などの生体防御反応に重要な役割を担っています。肥満細胞にはヒスタミンという物質が蓄えられていて、これが放出されると、炎症反応を引き起こしたり、胃潰瘍などの消化管潰瘍を起こしたりします。肥満細胞腫でも腫瘍細胞から大量にヒスタミンが放出されることにより、腫瘍周囲が赤く腫れたり、潰瘍を形成したり、嘔吐下痢などを引き起こしたりします、これをダリエ徴候といいますが、大きな腫瘍から大量に放出されると、出血が止まらなくなったり、血圧が下がってショック状態に陥ることもあります。
左鼠径リンパ節に転移した肥満細胞腫が発赤、腫脹し、左後肢とともに浮腫を呈しています。
肥満細胞腫は「がん」ですか?
肥満細胞腫は悪性の腫瘍(=「がん」)ですので、見つかったときは治療をすすめるべき腫瘍です。一口に肥満細胞腫といっても、一度の外科手術で完治するものから、全身に転移してしまう悪性度の高いものまで様々な種類があります。 これらを大きく低悪性度と高悪性度の二つに分類して、治療方針や予後の判断をします。正確な悪性度の判断は手術で摘出した腫瘍の病理組織検査で判断します。ですので、悪性度の判定ができるのは手術後になります。 ただ、初診時の細胞診や、腫瘍の大きさや形状、大きくなるスピードで大まかな判断をすることが可能です。診察にいらっしゃる時はワンちゃんの状態を一番ご存知の方が連れてきてください。いつから腫瘤があって、どれくらいの大きさだったか?赤く腫れたりしてなかったか?など普段の生活から診断に役立つ情報を得ることができます。
どんな検査をするの?
体表にしこりが見つかった場合、まず細胞診という、検査を行います。細胞診は腫瘍に細い針を刺して、細胞を採取し、顕微鏡で観察する検査です。肥満細胞腫の細胞は特徴的なので、ほとんどの場合、院内の検査で判定できます。 肥満細胞腫と診断されたら、次はリンパ節、肝臓、脾臓に転移がないか検査します。細胞診、レントゲン検査、超音波検査などを行います。
肥満細胞腫の細胞診。特徴的な好塩基性顆粒を細胞質に含んだ円形細胞が多数認められます。
どんな治療をするのですか?
外科手術:肥満細胞腫では第一選択の治療です。腫瘍の塊をくり抜くような方法(=辺縁切除)では腫瘍の根っこの部分が残ってしまいますので、周囲の組織を含めて切除します(=拡大切除)。
マージン2cmを含めた拡大切除。手術前に切除予定ラインをマーキングします。
放射線療法:外科手術だけで腫瘍細胞を完全に取りきれない場合や外科手術が行えない場合などに、放射線を照射して腫瘍細胞にダメージを与える方法です。
放射線療法を行う場合は大学病院などの専門施設を紹介します。
化学療法:抗がん剤などを使って、腫瘍細胞にダメージを与える方法です。1〜3週間に一回、静脈注射で投与したり、自宅で投薬したりします。外科手術で取りきれなかった場合、高悪性度の肥満細胞腫の場合など再発の可能性が高い場合に使用します。また、手術前に使用して腫瘍を小さくしてから、手術を行うこともあります。
低悪性度の肥満細胞腫は、中央生存値は2年以上と長く、多くの場合一回の外科手術で完治が期待できます。
高悪性度の場合は、外科手術だけでは再発、転移のおそれがあり、放射線療法や化学療法を併用して多方面から治療にあたります。中央生存値は4ヶ月程度と短く、非常に治療が困難な腫瘍だと言えます。
また、診断時の腫瘍の大きさや、発生部位、犬種などによっても予後が変わりますし、症例それぞれで、適切な治療法は変わってきます。
最終的には飼い主様にいくつかの治療オプションを提示し、その中から選択していただくことになります。詳しくは当院にご来院の際にお尋ねください。